「人間は盲腸をもっている」
2年くらい前に流れていた某クレジットカードのCMのフレーズだ。私はちょうどそのCMが流れていた頃、盲腸になった。病院のベットから「盲腸を甘く見て!」「そんな軽快に手術台に乗って!」などと、独り言を言っていたものだ。
 その日は前日の夜から痛みだした右わき腹が翌朝になっても治らない為、近所の病院へ行った。
「うーん…。この場所だと盲腸かもしれませんね。外科のある病院を紹介しますから
診てもらってください。」
えー!
すぐに帰るつもりでいた私は、とりあえず家に電話をし、痛む右腹を押えながらタクシーで病院へ向った。
「そこです…いたたた…」ベットに横になったまま先生の話しを聞いていた私の耳に恐れていた言葉が飛び込んできた。
「やはり盲腸の疑いがあります。超音波とCTで確認しましょう。」
これは大変な事になるかもしれないぞ…・
実はこの時、産後3ヵ月。家にはだんなともうすぐ4ヶ月になる子供がいたのだ。
もし入院になったらどうしよう・…
そのもしもになってしまった。
「やはり、盲腸でしょう。腸の方にまで進行しています。すぐに手術した方がいいでしょう。」
「手術って。あの、薬で散らすことはできないんでしょうか。4ヶ月の子供もいますので
できたらそうしたいんですが…」
私の盲腸はかなり進行しているらしく、薬で散らすことは不可能らしい。
「明日か明後日か、近いうちに腹膜炎を起こす可能性があります。今日手術した方が賢明でしょう。」
「今日ですか?」
盲腸について詳しく知らないし…麻酔は?…今日って…子供の授乳は?
頭の中がぐるぐる回り、しかし考えてる時間はそう長くない。急いで旦那に連絡した。
「やっぱり盲腸みたい。今日手術した方がいいって。」
電話の向こうの旦那はかなり冷静に私の話しを聞いていた。そして私の両親に連絡を取って相談すると言い電話を切った。今考えると、一番不安だったのは旦那だったのかもしれない。
緊急家族会議を開いた結果、その病院で手術を受ける事にした。
午後3時、手術が始まった。6月とはいえ、手術用に羽織った薄い浴衣一枚じゃかなり寒い。寒くてぶるぶる震えていた。
「脊髄に麻酔を打ちます。」
怖い…背中に鈍い感触が走る。
「ここ、どうですか?感触ありますか?」
「あります あります!まだあります!」麻酔が効いてないのに切られたら大変だ。
私は必死に答えていた。
「ここはどうですか?」何回か私のお腹を触りながら麻酔の効き具合のやりとりをしているうちに、お腹が自分のものではなくなってくるのが分かった。
とろとろ眠い中で、寒さだけはなくならず、ぶるぶる震えていた。
看護婦さんが「大丈夫よ。怖くないわよ…」私が恐怖で震えていると思い優しく言葉をかけてくれている。
どのくらい時間がたったのだろうか。
無事手術は終わった。
待合室では旦那と父が待っていた。
「先生がとった盲腸を見せてくれたよ。悪いものではないって。大丈夫だよ。」
悪いものって…そんな事考えてもいなかったので改めて無事手術が終了したんだと
ほっとしたのだった。