先日、1歳3ヶ月になる甥の面倒を見ることになった。

 普段は3歳上のお姉ちゃんに比べ断然おとなしく、女の子のような表情をする甥なのだが、自分の思うようにいかない時(例えばビー玉の入ったビンがどうしてもあけられない時や、おむつが嫌になったりするとき)豹変するのだ。いわゆるキレルとでもいうのか。今までの優しい表情から、突如「キー!!」という奇声とともにものすごい勢いで仰向けに転がり、訴えるのだ。時にはこちらを向いたまま、猛スピードで後ずさりし、地団駄を踏みながら部屋の隅っこで大声で泣く。初めはあまりに見事な転がりぶりに大笑いしたものだ。

 文頭でも書いたように、普段はとてもおとなしい。一人で静かにおもちゃで遊んでいた甥が、突然なにかに呼ばれたように台所の方に歩いて行き、何か話し始めた。

「たーたん…」

よく、他人の子が何を言っているのかさっぱり分からないのに、我が子の赤ちゃん言葉を見事に理解する親を目にするのだが、最近「マーマー」と「チョットー」しか話さない甥の言葉を完全に理解していない私は、「たーたん」の意味に悩んでいた。台所からトコトコもどってきたと思ったら、またもや台所へ向い、「たーたん」と言う

子供には座敷わらしが見えると言うのを聞いたことがある。現に甥の3歳上のお姉ちゃんは、実家の誰もいない所で誰かと話していたし、甥も仏壇の前でよく何やらもごもご話し、だっこしてとばかりに手を前にさし出したりする。 今回も誰か、大人には見えない何者かと話しているんだろうか、そう思っていた。台所と居間を何回も何回も往復する甥に、「だれかいるの?」と聞いていた私だった。何回往復しただろう。諦めたのか飽きたのか、甥はその行動をやめた。

 それからしばらくして、甥の家である私の妹の家に遊びに行った時の事である

「たーたん・…」

どこかで聞いたフレーズが聞こえてきた。それも台所で甥が言っているではないか。この家の台所にもそう思い始めたのもつかの間

「あっはいはい。麦茶ね。ちゃちゃ。」

当たり前のようにてきぱきと、妹は甥に麦茶を渡していた。

むぎちゃ、ちゃちゃ、ちゃーちゃん、タータン

なるほど…確かに台所の冷蔵庫に向かって言っていた。

かわいそうに甥は喉の渇きを癒す手段を私に訴えていたにもかかわらず、私に理解されなかったのである。さすが母親!一人感心する私であった。